
作文のクラスをいくつか担当しているけれど、
ときどきアホな課題を差し挟む。そして盛り上がる。
子供たちはたいてい作文が嫌いだし、たまに得意で上手な子がいても
「日本の文化とその独自性について」「地球温暖化とエネルギー問題」
なんていうお題で毎回、二本も強制的に書かされていれば
“得点を上げるための文の作成”に、心底うんざりしてしまうから。
いま、盛り上がっているのは
「読書してない感想文」。
読んでいない本について、見てきたようなウソをつく。
あ、そういう本があるのか! と採点者を惑乱させる作文をつくる。
みんな、むちゃくちゃ面白いものを書く。
生徒のそういう想像力、無駄にしちゃいけない。
例えばこういうのだ。
「 夏目漱石の『坊っちゃん』を読まずに
この本を読んで、私は格差社会の厳しさを痛感し、そこに生きる
私たちの責任について考えさせられました。
主人公は、財閥の御曹司です。みんなに坊っちゃんと呼ばれて何
不自由なく暮らしてきましたが、あるとき貧しい人々の現状を知り、
身分を捨ててNPOの活動に飛び込んでいきます。
もし私だったら、ずっとお金持ちの生活をすることを望んだで
しょう。坊っちゃんのように、サラ金業者と戦って貧しい人を助け
るなんて、想像もできなかったに違いありません。
この本から私は、人のために生きることの大切さを教わりました。
将来は私も、困っている人々のために活動し、そして主人公のよう
に、ずっと髪型は“坊っちゃん刈り”にしようと決意しました。 」
これは私がデタラメ例として黒板に(即興で)書いたものだけれど
生徒の作品はもっとすごかった。
お題として、内容が想像しにくい(そして、生徒がよんでいなさそうな)
本を何冊か「課題図書」として提示したところ
やすやすと書きあげてしまう生徒たち。
「 『蝿の王』を読まないで
ぼくはこの本を読んで、現代社会に生きる恐ろしさを感じさせられ、
急に不安になってしまいました。
今、インターネットやスマートホンによって情報を入手する世の中。
しかし、その使っている全ての機器が日本の“だれか”に支配されて
いるとしたら。たった一つの小さな情報で日本全体がその者の思うま
まに動き、大混乱に。ついには、政治まで支配してしまうその人物と
は誰なのか。この支配を止めるために立ち上がる主人公たち。最後の
最後まで、ハラハラドキドキの話でした。
ぼくは、これから情報には充分に気をつけて使っていきたいと思い
ました。 」
おい!ゴールディングの「蝿の王」は、無人島に流れ着いた少年たち
のバトル&サバイバルの話だよ!
いっちゃん、キミ頭ん中どないなっとんねん!
「 『悪魔のパス、天使のゴール』を読んだ(ふりをして)
私はこの本を読んで、協力することの大切さを学びました。
脚が痛んで一本も外に出られない悪魔を、天使が、歩けるように全力
を尽くしてあげます。もし私だったら、歩けない友達のため何もできな
いのに、天使が全力で尽くすところに感動させられました。また、歩け
るようになったら一緒にサッカーができるようにを練習をする、という
部分は、とてもびっくりしました。
私も天使を見習って、こまっている人がいたら助けたいと思いました。
また、協力してたくさんのことを乗り越えられるように、たくさんの友
達をつくりたいです。 」
おいおい!村上龍の「悪魔のパス、天使のゴール」は、セリエAに蔓延
するドーピング・ドラッグの謎を追うサッカー小説だよ!
みさきたん、でたらめ書いても優しさが作文に出るなあ…。
「 『いさましいちびのトースター火星に行く』を読んだつもりになって
ぼくはこの本を読んで、いじめについての悲しさを知り、そのはかな
さを感じてしまいました。
一年生の頃からいじめられていたちび君はエスカレートしていくいじ
めを気にしていませんでした。しかし、いじめる側は、ちび君が少し
かっこつけで勇気があることを知っていました。そして、いじめ集団は
オーブントースターを百個ほど爆発させて、その爆風でちびを火星へ飛
ばせてしまおう作戦を決行しました。ちび君は、かっこつけだったため、
全校児童に十分くらいで帰ってくると言っていましたが、大気けんに入
り、十分後には、灰となって帰ってきたのが心に残りました。
だから、いじめには、悲しさとはかなさを感じました。これからもぼくは
人権を守り、いじめないようにしていきたいと思います。 」
おいおいおい!これはディッシュのSF小説で、電化製品が宇宙に旅す
る可愛いおはなしだぞ!なんでいじめの話になるのだ。
真面目なショーゴ君、ときどきブラックなギャグが炸裂するから怖い。
というわけで、生徒の想像力&創造力に完敗。
添削しながらバカ笑いが止まりません・・・。