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ワンドの10

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「わら一本がラクダの背を折る」(The straw that breaks the camel's back.)
 という言葉がある。

そのラクダは、耐えられる限界ぎりぎりまで荷を背負わされている。
凄まじい重みは背に食い込み、いまだ倒れずにいるのが不思議な位だ。
これだけ背負えたのだから、まだ大丈夫だろう…と
最後に藁を一本、荷の上に乗せる。
ばきり。
ラクダは背骨を折って死んでしまう。
ほんの数グラムの重みでも、もはや耐えきれないところに来ていたのだ。

「何ごとも、限度を超えてはいけない」
ということを示す諺だが

こわい言葉である。

「最後の羽一枚が、馬の背を折る」というバージョンもあるそうだが
藁にせよ、羽にせよ、
ほとんど重さのない、存在感すらない、何気ないものが
誰かにとどめを刺す。

とても怖いことだ。


責任感のかたまり、と言われ
誰にも好かれ頼られるひとがいた。
職場では、皆が嫌がって手をつけない仕事を一手に引き受ける。
晴れやかな笑顔で人の気持ちを明るくしながら
手際よく業務を片付けていく。
有能だから、間違いがないからと
その人のもとに持ち込まれる仕事はどんどん増えていく。
いつも深夜まで残って働いていた。
翌日に残すと、他の人が苦労することになるからだ。
数年たち、十数年がたち、
「その人でなければできない仕事」は膨大な量になっていた。
笑顔に陰りが見え始めた。
それでも、ひとりで頑張り続けた。
手伝おうか…と申し出た人には笑って首を振った。
それどころか、その人の分の仕事まで引き受けた。
業務はますます増え続けた。
そのひとの顔色はいつも真っ白だった。
微笑みがこわばるようになっていた。
「じゃ、これもついでにお願いね」と明るい声がして
一通の書類が、いまだ片付かない束の上にふわりと置かれた。
そのひとは笑みを返そうとして止まり、ふ、と息をついた。
翌日、そのひとは職場に来なかった。
なんの連絡もなかった。
その翌日も、来なかった。
何も言わず、何の説明もなく、
二度と、来なかった。


よくある話だ。

ことに日本では、どこにでもある話と言えるだろう。

どんな職場にも「そのひと」はいるし、
多くの家庭のお母さんはおそらく
「そのひと」であることを一生ひき受けていく。
仕事ではない、どんなものごとであっても「そのひと」は生じるし、
そのことに気付かない周囲、気付いていても見ない周囲の構図も同じだ。
私が見てきたあちこちの場所にも「そのひと」はいたし、
私自身が「そのひと」であったこともある。
そして私が、軽やかな藁の一本を無自覚に積むことで
「そのひと」の背中を無残にも折ってしまったこともある。


ワンドの10番。
義務と責任をいっぱいに背負いこんで
つぶれそうな重みに耐えながら歩いていく人物が描かれている。

完成数である「10」の札には
そのスートの世界が最後にはどんなところに行きつくのか、
その結果が描かれている。

ワンドの世界の主人公は、野心に燃えて旅立った。
今は棒きれ一本しか持っていないけれど、
いつかは、はるか遠くに見えるあの城を我がものにしようと。

過去と未来を秤にかけ、自分にできることを確かめた。
冒険に出て、経験値を積んで自信をつけた。
ある村で優しく迎えられ、仲間の有難さを思い知ったけれど
野心が頭をもたげる。
意見や立場の違う者たちと、しのぎを削らずにはいられない。
戦いに勝利をおさめても、すぐにライバルに出し抜かれる。
有利な立場に立っても、すぐに逆転され追いやられる。

ついに、誰のことも見えなくなる。
見えるのは戦場を飛んでいく槍、燃える矢、投擲された岩、爆弾、ミサイルだけだ。

ようやく、自分だけの狭い陣地を手に入れる。
手ひどい怪我を負った彼は、誰のことも信用しない。
誰も自分の領地には入れない。
疑心暗鬼に満ちて周囲を睥睨する。

戦争が終わり、敵が去っても
何ひとつとして人に任せることができなくなっている。
手に入れたのは城ではなく、つつましい家が一つだけれども
そこに薪を運ぶことすら、誰にも頼めなくなっている。

重くて倒れそうだけれど、ひとりで抱え込む。
藁の一本も載せたら背中が折れそうだけれど、ひとりで背負っていく。
野心を追い、戦い続けてきた彼には
心をゆるせる人など一人もいないのだ。

それでも耐え抜き、ゴールまで歩き通す姿は


雄々しいだろうか。立派なものだろうか。

それとも、愚かしい真似なのだろうか。


タロットはどちらとも決めつけない。

ただ、背負い込んだすべての重みをしっかりと引き受けて
その力を限界までいっぱいにチャージして
ワンドの世界の張りつめた強いエネルギーは
そのままカップのAへとまっすぐ流れ込んでいく。
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